もう20年以上も昔のこと、インドネシア東部にあるトゥアルという小さな島に何度か行ったことがあります。
小さな空港があり、小さな飛行機が週何回か飛んでいる程度ですが、それでもその飛行機は重要な交通手段でした。
そこからさらに船で一日かけで移動しなければならない私を、いつも親切にもてなしてくれたのが、この島で雑貨商を営むアラブ人でした。
「疲れただろう。あがって、あがって。水がたくさんあるぞ。風呂に入りなさい。その間、妻に食事を用意させよう。」
ハミッドさんは、決まってそう言って私を家の中に迎え入れました。
アラブの砂漠ほどではないものの、この地域では水は貴重なものです。貴重な水を客に使わせることは最高のもてなしで、アラブのもてなしの心と、いまさらながらに彼のもてなしが、いかに並外れたものだったかを思い出しています。
言葉通り、風呂からあがるとダイニングにある大きなテーブルにところ狭しと並べられた肉や魚、野菜の料理。四方を海に囲まれた島ゆえ、魚は簡単に手に入るとしても、肉や野菜は貴重です。おしげなく、長方形の大きなテーブルいっぱいに品数豊富に並べられた料理はどれも美味しい。
食事が済むと、
「疲れただろう。部屋を用意してあるから休んだ方がいい。」
といって客室へ案内。
至れり尽くせりのもてなしでした。
日本は「もてなし」の国として、世界の関心を集めていますが、何もない小さな漁村に、外から移り住んだ人がする「おもてなし」。ハミッドさん一家の「おもてなし」は、いつも心にしみるものでした。
あの当時、ハミッドさんはお父さんと同居していらっしゃいましたが、今はどうしていらっしゃるのか?奥さんも、そして大勢の子供たちもみんな成人して、家庭を築いていることでしょう。
20年前より遥かに交通手段も発達し、心理的な距離感が縮まった今。機会があれば、またハミッドさん一家をたずねてみたい衝動にかられています。