アジアな空間

日常の出来事や、アジアに関することを書き綴ります。

アジアな空間 その1704 心にしみる言葉 の巻

 最近、外国人犯罪のニュースが目立っていますが、司法の分野では日本語が不十分な外国人容疑者や被疑者には通訳人をつけることができます。弁護人の通訳、警察や検察など取り調べをする側の通訳、そして裁判の際の法定通訳と、事件に関わる立場ごとに通訳人がいます。

 

 これまで経験したほとんどのケースは、被疑者なり容疑者は自分の身に起こったことで精一杯ですが、最近関わったケースで意外なことがありました。公判を間近に控えたその人は、

「今日があなたと会える最後の機会ですね。これまで何度も自分のために通訳をしていただき、本当にたくさん助けられました。ありがとうございました。今、日本もコロナが蔓延し大変な状況にありますが、どうかあなたがコロナに感染せず健やかに過ごすことができますように。私は祈っています。本当にありがとうございました。」

と感謝の気持ちを言葉にしてくださいました。長年このような通訳をしていて、初めて心にしみる言葉をいただいた瞬間でした。

 

 管理人は、通訳人とは意思を持たない翻訳機のような存在と思っています。AさんとBさんが話すことをそれぞれを1人称で表現する、そこに通訳人の「私」が存在しない空間です。

 先日、お礼の言葉を言ってくださった方は、そんな管理人の存在を心にとめて、そして祈りの言葉も伝えてくれるなんとも感激の瞬間でした。そして、このような仕事での出会いは、生涯にわたり再会することがない出会いです。一期一会とでもいうべき出会い、関わりでしょうか。

 その日、通訳を終え部屋を出るとき、その方が名残惜しそうな表情で手をふって

「さようなら」

と言っていました。

 

 もし自分が外国で犯罪に巻き込まれ、言葉が不自由だったらとても不安だと思います。そしてポジティブ思考なんてあり得ない状況に追い込まれるのではないかと思います。

 管理人は、やがて日本から退去処分を下されるであろう外国人が、せめて最後に出会った日本人が彼、彼女の母国語で意思疎通がはかれる人と出会い、不安、恐怖の中にあっても少しは心が癒されて帰国して欲しいと願っています。